ギ酸というと、昆虫のアリがだす酸というイメージを持っている方も多いでしょう。
確かに、それは間違いではありません
。しかし、ギ酸は自然界にある酸でありながら危険物として分類されています。
そこで、今回はギ酸の性質や特徴、さらに管理や保管の仕方などをご紹介しましょう。
ギ酸は酢酸ができるときの副産物として作成されるため、今まではあまり使われることはありませんでした。
しかし、ギ酸を利用した精密機械の洗浄が環境に優しいことが分かり、利用するところも増えてきたのです。
危険物取扱者の資格取得を目指している方は、ぜひこの記事を読んでみてくださいね。
- ギ酸の性質や特徴とは?
- 危険物としてのギ酸
- ギ酸の利用法とは?
- ギ酸の取り扱い方や保管方法とは?
- おわりに
1.ギ酸の性質や特徴とは?
ギ酸は、別名「蟻酸(ぎさん)」ともいいます。
ハチ科のアリが持っている毒のひとつで低級カルボン酸の一種です。
すべてのアリがギ酸を持っているわけではありません。
また、昆虫のアリから抽出するものでもないのです。
ギ酸は酢酸を作成するときの過程で副産物としてできます。
また、アルコールの一種であるメタノールが酸化するとホルムアルデヒドになりますが、このホルムアルデヒドがさらに酸化するとギ酸になるのです。
さらに、酢酸は危険物第4類の中の第二石油類に分類されていますが、副産物としてできるギ酸も同じ類の危険物に指定されています。
しかし、純ギ酸でなく「ギ酸エステル」という物質になっていますので、混同しないように注意しましょう。
また、高い還元作用を持っています。
さらに、ギ酸の水溶液や蒸気は酢酸と同じように強い腐食性があるのです。
特に、目についてしまうと回復不可能なほど傷がつくこともあるでしょう。
さらに、肺に入ると肺水腫の原因になります。
そして、長期間ギ酸を体内に取り入れ続けると、肝臓や腎臓に障害が出ることもあるのです。
そのため、危険物だけでなく、毒物及び劇物取締法により、「劇物」にも指定されています。
2.危険物としてのギ酸
さて、この項では危険物としてのギ酸の特徴についてご紹介します。
ギ酸は、引火点がマイナス19度と大変低いため、常温で引火するのです。
また、沸点も32度~54.1度と同じように低いため、少し熱するだけで発火してしまうでしょう。
ギ酸は「ギ酸エステル」もしくは「ギ酸メチルエステル」という名前で流通していることが多いので、たとえ純ギ酸でなくても注意が必要です。
また、ギ酸は無色透明で独特の芳香があります。
酢酸のように鼻を突くような酸っぱさを感じることはありません。
また、水には溶けませんが有機溶剤には溶けます。
引火性が高いので保管方法には注意が必要です。
3.ギ酸の利用法とは?
この項では、ギ酸の用途についてご紹介しましょう。
危険物というと、化学工場などにあるものというイメージがある方もいますが、実はそのような場所以外でも利用されていることがあります。
3-1.防腐剤や抗菌剤
家畜の飼料の防腐剤や抗菌剤として、昔からギ酸が利用されてきました。
特に、牛の飼料になる干し草に噴霧すると腐食を抑えて栄養価を高める性質があります。
また、サルモネラ菌の発生を抑える性質もあるので、養鶏農家で使われることも多いです。
さらに、養蜂家がダニの殺虫剤で用いることもあります。
3-2.繊維工場で利用される
ギ酸は、ある種の皮や繊維を柔らかくする性質があるので、繊維や皮をなめす溶剤として使われることもあります。
さらに、ギ酸エステルは芳香があると前述しましたが、その芳香を利用して香料が作られることもあるのです。
家にある芳香剤の成分を見てみましょう。ギ酸エステルと成分に表示されているものもあります。
3-3.燃料電池として利用する
今は、エコな燃料として注目されている燃料電池。この燃料電池は水素を利用しています。
しかし、水素はご存じのとおり発火性があり、液体するにはマイナス250度以上冷やさなければなりません。
つまり、電池にするにはいろいろな制約があるのです。
ギ酸を56度まで熱すると還元作用によって水素ガスが発生します。
これを利用してギ酸から水素を発生させる方法が現在研究されているのです。
水素電池ならぬ「ギ酸電池」として実用化される日も近いかもしれません。
3-4.洗浄に利用する
精密機械は、作成の最後に洗浄工程が必要です。
これは、はんだづけをしたときについたカスなどを取りのぞくのが目的ですが、工場ではその洗浄に使った液体の処理が悩みの種でした。
化学薬品を使った洗浄液では、処理をして処分しないと環境を汚染してしまいます。
そこで、ギ酸の還元作用を利用した洗浄装置が注目を集めているのです。
このときに使われるギ酸は、濃度が90%以下ですので危険物には該当しません。
また、ギ酸が空気に触れると最終的には水と二酸化炭素に分解されてしまいます。
さらに、ギ酸自体も自然界にたくさん存在している物質なので、高度な処理をしなくてもそのまま処分することが可能なのです。
4.ギ酸の取り扱い方や保管方法とは?
では最後に、ギ酸の取り扱い方や保管方法などをご紹介します。
ぜひ参考にしてくださいね。
4-1.ギ酸の保管方法とは?
ギ酸は、揮発性が高い物質です。
ですから、密閉できない容器に入れて風通しの悪いところに保管しておけば、ギ酸のガスが発生してしまいます。
そのため、ギ酸は密閉した容器に入れて風通しのよい冷暗所に保管しましょう。
もちろん火気厳禁ですので、「火気厳禁」の札を避けておくことを忘れずに。
4-2.ギ酸の取り扱い方とは?
ギ酸を取り扱う際には、手袋やメガネ、マスクなどを使いましょう。
ギ酸エステルなどを使うときも同じです。
特に、蒸気を吸いこんでしまうと肺に悪影響が出るので気をつけましょう。
また、ギ酸は濃度が低ければ危険物に指定されません。
ですが、前述したように濃度の低いギ酸でも、長年吸入を続けると内臓に悪影響が出ます。
ですから、濃度が低いギ酸でもマスクをして取り扱いましょう。
4-3.ギ酸の消火方法
ギ酸が原因で火災が起きた場合は、窒息消火をします。
水をかけると爆発の危険があるので、二酸化炭素や泡の消火器を利用してください。
そのような消火器がないという場合は、砂を利用してもよいでしょう。
消防に連絡するときは、必ずギ酸が原因の火災であることを伝えてください。
そうすれば、装備を調えて出動してくれます。
5.おわりに
いかがでしたか?
今回はギ酸の性質や特徴についてご紹介しました。
ギ酸は、今までは防腐剤や抗菌剤としてしか使い道がありませんでした。
しかし、燃料電池に使えると分かってから、取り扱う企業が増えたのです。
さらに、ギ酸エステルなどは香料の原料としても需要があります。
そのため、危険物に該当しない濃度の低いギ酸は多くの場所で使われているのです。
危険物取扱者の資格を取得しても、ギ酸を取り扱ったり保管したりすることは少ないかもしれません。
しかし、ギ酸でも危険物であることは変わりないのです。
不用意に扱ったり火気に近づけたりしないように注意してください。
特に、沸点や引火点が低いので、静電気にも要注意です。
常温で保管している酢酸に静電気の火花が触れたとたんに引火する恐れもあります。
ですから、冬場などは静電気を除去してから扱いましょう。
さらに、マスクをつけずに顔を近づけたりしないように心がけてください。