危険物と一言で言っても、その管理や取り扱いは単純なものではありません。実は危険物の保管には、法令により厳格な基準が存在します。
しかしながら、その基準について十分に理解している人は少なく、結果として保管方法が適切でないケースが散見されます。そのような事態を防ぐため、この記事では危険物の正確な定義から、適切な取り扱い方法、さらには保管庫や貯蔵庫の設置基準について具体的に解説します。
危険物を取り扱う職場で働く人、または自宅で危険物を保管する必要がある人々にとって、この情報はぜひとも身につけていただきたい知識です。事故や火災は予期せぬ瞬間に起こります。だからこそ、我々は正しい知識で適切な管理をし、可能な限りそのリスクを低減するべきです。
1.危険物とは
危険物を正しく取り扱うためには、危険物について詳しく把握しなければなりません。危険物とは何なのか、消防法や危険物の種類・分類をチェックしておきましょう。
1‐1.危険物の定義
通常の状態で保管・放置すると火災や爆発・中毒などの災害につながる物質があります。それが「危険物」です。日本における危険物は、消防法で定めている「危険物」を指しています。
1‐2.消防法について
消防法は危険物の取り扱いや保管方法などが記載されている法律です。消防法では危険物を「法別表の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる形状を有するものをいう」と記載されています。
消防法
1‐3.消防法に定められた危険物の種類・分類
消防法に定められた危険物は第1類~第6類に分類されています。それぞれどんな性質を持っているのでしょうか。
- 第1類…酸化性固体(塩素酸塩類・よう素酸塩類など)
- 第2類…可燃性固体(硫化りん・マグネシウムなど)
- 第3類…禁水性物質(カリウム・黄りんなど)
- 第4類…引火性物質(特殊引火物・アルコール類など)
- 第5類…自己反応性(有機過酸化物・ニトロ化合物など)
- 第6類…酸化性液体(過塩素酸・硝酸など)
2.危険物の保管について
危険物の保管に関しては消防法に基づいて定められています。危険物の保管規定や指定数量など詳しく見ていきましょう。
2‐1.危険物の保管規定
危険物の保管規定は各市町村の条例で定められています。詳しく定められているので、必ずホームページなどでチェックしなければなりません。また、保管する危険物の指定数量によって倉庫・保管庫・貯蔵庫の設備規模が変わります。そのため、消防法で定められている指定数量についても把握しておかなければなりません。
危険物の指定数量
2‐2.危険物の指定数量について
危険物の指定数量とは、消防法の規制を受ける危険物の量を指しています。指定数量以上かどうかによって保管方法が異なるのです。
2‐2‐1.計算方法
指定数量の計算方法は「危険物の指定数量÷危険物の貯蔵量=指定数量の倍数」です。同じ場所で2つ以上の危険物を貯蔵する際は、それぞれの危険物の数量を計算しなければなりません。たとえば、A・B・Cの危険物を同じ場所で貯蔵する際は次の計算方法になります。「(Aの指定数量÷Aの取扱量)+(Bの指定数量÷Bの取扱量)+(Cの指定数量÷Cの取扱量)=指定数量の倍数」です。
2‐2‐2.指定数量以上の保管について
指定数量以上の危険物を保管する施設は大きく3つに分類されます。のちほど「4-3.危険物施設の種類と違い」で詳しく述べますが、3つの施設とは「製造所」「貯蔵所」「取扱所」です。製造所は危険物を製造する施設、貯蔵所は危険物を貯蔵・取り扱う施設、取扱所は危険物を取り扱う施設になります。
3.少量危険物の保管・取り扱いとは
危険物の指定数量によって「少量危険物」に分類できます。そこで、少量危険物とは何なのか、保管できる倉庫や注意点など説明しましょう。
3‐1.少量危険物とは
指定数量5分の1以上が少量危険物になります。たとえば、灯油・軽油は1,000リットルが指定数量なので、200リットル~1,000リットルが少量危険物です。複数の危険物を保管する場合は、合計数が5分の1以上であれば少量危険物になります。
3‐2.少量危険物が保管できる倉庫
少量危険物が保管できる倉庫は「消防署に届け出をした倉庫」です。指定数量内の少量危険物だとしても最寄りの消防署に届け出しなければなりません。少量危険物は資格なしでも取り扱い可能ですが、貯蔵庫のまわりには1m以上の保有空地を作らなければならないと決まっています。
3‐3.少量危険物保管の注意点
少量危険物を保管する場合、大型施設よりも保管空間が狭くなるでしょう。そのため、施設を作るよりも危険物倉庫をレンタルするケースが多いです。しかし、たとえレンタルだとしても安心してはいけません。自治体の火災防止条例を確認しつつ、適切な保管場所かどうか管理を徹底しましょう。
4.危険物の倉庫・保管庫・貯蔵所について
指定数量以上の保管や危険物倉庫・保管庫・貯蔵所の基準・危険物施設の種類など詳しく説明します。
4‐1.指定数量以上の保管について
指定数量以上の危険物を保管する場合、貯蔵所以外の場所に貯蔵・製造・取り扱いが禁じられています。しかし、消防署の承認を受ければ指定数量以上の危険物でも10日間以内の貯蔵・取り扱いができるのです。
4‐2.危険物倉庫・保管庫・貯蔵所の基準
屋内貯蔵所の構造や設備には基準が定められています。構造・設備基準についてまとめてみました。
構造の基準
- 6m以内の平屋
- 床面積は1,000㎡以下
- 屋根は不燃材料を用いる、天井を設けてはいけない
- 壁・柱・床は耐火構造
- 窓ガラスは網入りガラス
- 危険物が浸透しない構造の床
設備の基準
- 避雷設備(指定数量が10倍以上の場合)
- 蒸気排出設備(引火点70℃以内の危険物)
- 採光
4‐3.危険物施設の種類と違い
危険物施設の種類には、前述したとおり、大まかに「製造所」「貯蔵所」「販売所」があります。それぞれ、どんな違いがあるのか詳しくチェックしておきましょう。
4‐3‐1.製造所
製造所とは危険物を製造する施設を指しています。危険物を製造する危険な場所なので、構造・設備だけでなく、配管の基準も細かく定められているのです。たとえば、配管には強度の材質を使用する・配管にかかる最大常用圧力の1.5倍以上の圧力実験をおこなう・地震や風圧に対応した鉄筋コンクリート造にするなどがあります。
4‐3‐2.貯蔵所
貯蔵所には屋内タンク貯蔵所・屋外タンク貯蔵所・地下タンク貯蔵所・簡易タンク貯蔵所があります。危険物をどの場所で保管するのかによって異なるのです。また、危険物を運ぶ際にも移動タンク貯蔵所があります。移動タンク貯蔵所はタンクローリーと呼ばれている車両です。
4‐3‐3.取扱所
危険物の取扱所はガソリンスタンド・車に使用するオイルの販売店・車の整備工場などです。ガソリンスタンドは「給油取扱所」・危険物を販売する場所は「販売取扱所」・危険物を送るパイプラインは「移送取扱所」と呼ばれています。
4‐4.管理者の必要性
一定数量以上の危険物を貯蔵・取り扱う場所には「危険物取扱者」を必ず置かなければなりません。危険物取扱者は危険物を正しく使用・保管するために必要な役職です。危険物取扱者がいることで危険物によって起こる事故やリスクが防止できます。
4‐5.届け出について
危険物施設では安全確保のため、届け出をしなければなりません。法令で定められている申請手続きは「許可申請」「承認申請」「検査申請」「認可申請」の4種類です。
- 許可申請 製造所の設置許可・製造所などの位置や構造設備の変更
- 承認申請 仮使用・仮貯蔵と仮取り扱い
- 検査申請 完成検査前検査・完成検査・保安検査
- 認可申請 予防規定の作成または変更
5.危険物に関係する資格について
危険物に関係する資格には「危険物取扱者」「危険物保安監督者」「危険物保安統括管理者」と、主に3種類あります。それぞれどんな資格になるのか見ていきましょう。
5‐1.危険物取扱者
危険物を取り扱うための資格といえば「危険物取扱者」です。危険物取扱者は取り扱う危険物によって甲種・乙種・丙種(へいしゅ)の3つにわかれています。
5‐1‐1.甲種
甲種危険物取扱者は第1類~第6類まですべての危険物を取り扱うことができます。6か月以上の実務経験があれば「危険物保安監督者」にもなれる資格です。
5‐1‐2.乙種
乙種危険物取扱者は免状を取得した種類の危険物だけ取り扱うことができます。また、甲種危険物取扱者と同じく、6か月以上の実務経験があれば「危険物保安監督者」にもなれるのです。
5‐1‐3.丙種
丙種(へいしゅ)危険物取扱者は第4類危険物だけ取り扱いができます。第4類危険物はガソリン・灯油・軽油・重油・潤滑油・引火点130℃以上の第3石油類・第4石油類・動植物油類です。ちなみに、丙種(へいしゅ)は危険物保安監督者になれません。
5‐2.危険物保安監督者
危険物保安監督者は危険物取扱者の中から選任されます。危険物取扱作業場所において、貯蔵や取り扱いに関する基準・必要な指示をおこなう人です。甲種・乙種危険物取扱者の中で、6か月以上実務経験を持っている人がなれます。
5‐3.危険物保安統括管理者
危険物保安統括管理者は事業所の事業に関して統括責任を持っている人のことです。危険物取扱者である必要はありません。主に、事業所における危険物および危険物施設の保安業務を統括的に管理します。
6.危険物取扱者の試験について
危険物取扱者の試験資格や試験概要・試験科目・実務経験・合格率など説明します。試験を受ける前に、どんな試験内容なのか把握することが大切です。
6‐1.試験資格
乙種・丙種(へいしゅ)は誰でも受験できます。甲種は一定の資格が必要です。甲種の受験資格は以下のとおりになります。
- 大学などにおいて化学に関する学科などを修めて卒業した者
- 大学などにおいて化学に関する授業科目を15単位以上修得した者
- 乙種危険物取扱者免状を有する者
- 修士・博士の学位を有する者
6‐2.試験概要
試験を受ける前に、申し込み方法や試験日・試験地・受験料など確認してください。
6‐2‐1.申し込み
危険物取扱者の試験申し込みは書面申請と電子申請の2とおりあります。書面申請の場合、必要な書類を受けつけ期間内に申請してください。申請窓口は各都道府県のセンターになります。電子申請は「一般社団法人 消防試験研究センター」のホームページから可能です。
申し込みページ
6‐2‐2.試験日
試験は月に2~6回ほど実施されています。東京などは頻繁に実施されているので、都合の良い日程が選択できるでしょう。試験日の詳細はHPでチェックできますよ。
試験日ページ
6‐2‐3.試験地
試験地は都道府県知事から委託を受けている、各都道府県の消防試験研究センター支部でおこなわれます。東京都は中央試験センターで開催です。自宅に近い場所のセンターに申し込みをしてください。
試験地ページ
6‐2‐4.受験料
受験料は甲種が5,000円・乙種が3,400円・丙種(へいしゅ)が2,700円です。郵便局の窓口からの支払いになります。
受験料ページ
6‐3.試験科目
試験内容は甲種・乙種・丙種(へいしゅ)ともマークシート方式です。「危険物に関する法令」「危険物の性質ならびにその火災予防および消火の方法」は全種共通科目になります。共通科目に加え、甲種は「物理学および化学」、乙種は「基礎的な物理および基礎的な化学」、丙種(へいしゅ)は「燃焼および消火に関する基礎知識」が入るのです。
試験科目ページ
6‐4.実務経験について
乙種の免状交付を受けた後、2年以上の実務経験があれば甲種危険物の受験資格が得られます。実務経験とは消防法令で定められている製造所などでの危険物取り扱いに関する経験のことです。
受験資格ページ
6‐5.難易度・合格率
試験の合格率は一般社団法人消防試験研究センターの公式HPにて確認できます。ちなみに、近年では甲種が30%前後・乙種が50%・丙種(へいしゅ)が40%前後です。難易度は出題範囲が広くなるほど高くなります。ただし、きちんと勉強を続けていけば合格できる範囲です。
6-6.問い合わせ先
試験についてわからないことがあれば、一般社団法人消防試験研究センターに問い合わせてください。問い合わせは各支部にて電話で受けつけています。
本部・支部等住所連絡先
6‐7.合格後の講習について
危険物を取り扱っている有資格者は、保安講習を3年に1回受けなければなりません。資格を取得した後でも講習が必要なのです。常に危険物の情報は更新されています。講習によって新しい情報・知識を身につけることが重要です。法定講習に関するお問い合わせは、各都道府県庁の消防・防災課で受けつけています。
各都道府県庁の防災課リスト
7.危険物取扱者の勉強法
危険物取扱者の試験対策をしたいけれど、何から始めたらいいのかわかりませんよね。そこで、受験対策や講習・学習時間・勉強法など詳しく説明しましょう。
7‐1.受験対策・勉強法
独学・専門スクール・通信講座など勉強法は人によって異なります。自分にとって毎日続けられる勉強法が受験対策にぴったりです。特に、出題範囲が広い甲種は毎日地道に勉強を続けることが大切なポイントになります。仕事で忙しい方には自分のペースで勉強できる通信講座がおすすめです。
7‐2.学習時間・学習のコツ
学習時間は人によって異なりますが、毎日コツコツ積み重ねることが合格のポイントになるでしょう。暗記すべき内容も多いため、毎日勉強を続けたほうが覚えやすいです。1日数分~1時間でもいいので、テキストや過去問で問題を解いてみてください。
7‐3.過去問・テキスト・参考書
テキストや参考書は1冊にして過去問をできるだけたくさん解いていきましょう。なぜなら、過去問から似たような問題が出てくるからです。実際、過去数年間の問題から同じ内容が登場しています。一般社団法人消防試験研究センターのHPでは過去の問題が確認できるので、ぜひチェックしてみてください。
過去問題ページ
8.危険物に関してよくある質問
危険物に関してよくある質問を5つピックアップしてみました。
Q.危険物保管庫の表示とは?
A.危険物の保管庫には危険物を保管しているとわかる表示をしなければなりません。「危険物標識」と呼ばれているシールや掲示板を提示する必要があります。表示には危険物の品名や最大数量などを書きこむ仕組みです。
Q.危険物の保管で組み合わせてはいけないものとは?
A.危険物の中には一緒に保管してはいけないものがあります。たとえば、第1類と第6類・第2類と第4・5類、第3類と第4類・第4類と第2・3・5類、第5類と第2・4類です。
Q.危険物の保管容器について
A.危険物の保管容器は消防法によって定められています。私たちの身近なものといえば、ガソリンを入れて持ち運ぶ携帯容器ですね。第4類危険物になるガソリンは引火点が高いので1度火がつくと危険な状態になります。そのため、金属製容器でなければなりません。
Q.危険物保管の際の施錠はどうすべきか?
A.危険物を保管している貯蔵所では常時施錠をしておかなければなりません。必要なときにだけあけるよう徹底しましょう。
Q.危険物倉庫の購入はいくらぐらいか?
A.危険物倉庫はおよそ100万円~500万円が目安です。小さいスペースであれば、数十万円台もあります。換気するための煙突や消火器、耐熱用など施されているので普通の倉庫よりも高めです。
まとめ
今回の記事では、危険物とは何か、危険物の取り扱いや保管について詳しく説明しました。また、危険物取扱者の資格を取得することで、専門知識を身につけることができるだけでなく、転職や就職の面でも有利になるでしょう。
ぜひ、危険物資格取得に向けて、今後の勉強の参考にしてください。さらに、ブログ内には他にも危険物に関する記事がありますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。