危険物の1つになる「ヒドラジン誘導体」はどんな物質なのでしょうか。
危険物を取り扱う前に、基本的な知識はもちろん、注意点をきちんと理解しておかなければなりません。
何も知らないまま危険物を扱えば、大事故につながります。
そこで、ヒドラジン誘導体の性質・特徴や危険性、取り扱い方、保管方法について詳しく説明していきましょう。
ヒドラジン誘導体は危険物取扱者の試験にも出てきます。
試験勉強をしている人は、ぜひ参考にしてください。
- ヒドラジン誘導体の性質・特徴
- ヒドラジン誘導体の危険性
- ヒドラジン誘導体の取り扱い・保管方法
- まとめ
1.ヒドラジン誘導体の性質・特徴
基本的に、ヒドラジン誘導体はケトンとヒドラジンの脱水縮合で合成するものです。
ヒドラジンをもとに構成している化合物になります。
では、一体どんな性質・特徴を持っているのでしょうか。
1‐1.塩基性・配位性を示す危険物
ヒドラジン誘導体は「イミン」の性質を持っています。
イミンとは、有機化合物の1つで炭素・窒素2重結合を持っている化合物です。
イミンの窒素は孤立電子対を持っているため、配位子(はいいし)やルイス塩基として働きます。
よって、ヒドラジン誘導体にも塩基性・配位性が現れるのです。
酸の働きを中和して塩と水だけをつくる、金属に配位する性質を持っていると言えるでしょう。
ヒドラジン誘導体は酸や塩基の水溶液で処理すると加水分解を受けます。
そして、もとのケトンとヒドラジンに戻るのです。
ただし、酸・塩基の水溶液における反応は置換基の種類や立体障害によって異なるでしょう。
1‐2.溶けるものと溶けないもの
ヒドラジン誘導体には溶けるものと溶けないものがあります。
実際に試してみるとわかりますが、冷水やアルコールには溶けません。
しかし、温水には溶ける特徴を持っています。
ヒドラジン誘導体が温水に溶けると「酸性」になるでしょう。
また、強い還元力を持っています。還元力とは、物質のサビ(酸化)を取りのぞく力です。
物質の酸化を取りのぞけるため、もとの状態に戻すことができます。
分解しやすい危険物だと思っておいてください。
アンモニアに似た刺激臭を持っていますが、色は無色です。
しかし、引火性が強いため扱いには十分に気をつけなければなりません。
逆に、引火性の強さを生かしてミサイルの燃料に使用しています。
1‐3.ヒドラジン誘導体の用途
ヒドラジン誘導体はどんな場面で使用しているのでしょうか。
強い引火性を利用したミサイル燃料だけでなく、さまざまな場面で使用しています。
たとえば、戦闘機の非常用電源装置や人工衛星、宇宙検査機の姿勢制御用燃料です。
ヒドラジン誘導体は危険物の中でも常温での保存ができる貴重な存在になります。
常温での保存ができるからこそ、より高度な技術へ採用できるのです。
また、プラスチックを成型するときの発泡剤、エアバッグの起爆剤、脱酸素剤としても幅広く使用しています。
特に、多いのが火力・原子力発電所用高圧ボイラーの防食剤です。
火力・原子力発電所の高圧ボイラーは高温・高圧環境で稼働しています。
できるだけ腐敗を防がなければなりません。
そこで、ヒドラジン誘導体の特性が発揮します。
以上のように、ヒドラジン誘導体にはさまざまな用途があるのです。
2.ヒドラジン誘導体の危険性
2‐1.人体への悪影響
ヒドラジン誘導体は第5類危険物の1つです。
第5類危険物には自己反応性という特徴を持っています。
自己反応性とは、分子中に酸素が入っているため自己燃焼しやすいことです。
特に、酸化剤と激しく反応します。
ヒドラジン誘導体を酸化剤の近くに置いていると、発火・爆発の危険性があるのです。また、融点以上に加熱するとアンモニア・二硫化硫黄・硫化水素を生成して分解します。
アンモニア・二酸化硫黄・硫化水素は私たちにとって非常に危険な物質です。
毒物・気化を吸引すれば呼吸困難におちいると言われています。
さらに、皮膚へ接触すると腐敗してしまうのです。
液体が皮膚に触れないよう気をつけてくださいね。
2‐2.中毒性のある危険物
毒物および劇物取締法によって、ヒドラジン誘導体は毒物に指定しています。
毒物に指定しているほど、「中毒性」を持っているのです。
ヒドラジン誘導体の中毒性は非常に危険だと言われています。
実際、ラットを使った実験で出たデータを見るとわかるでしょう。
環境省ではラット、またはモルモットを対象にしたヒドラジン誘導体の実験をおこないました。
およそ7か月間、0~0.3mg/kg/daのヒドラジン誘導体を投与していったのです。
結果、0.03mg/kg/day以上の群で肝障害や中枢神経障害、貧血などが現れました。
実験結果による判断はいまだはっきりとしていませんが、人への中毒性も関係する危険物と言えるでしょう。
人間もラットと同じく、肝臓・中枢神経系・じん臓への悪影響におよぼすことがわかっています。
3.ヒドラジン誘導体の取り扱い・保管方法
3‐1.ヒドラジン誘導体の取り扱い方
危険物を取り扱う前は、必ず正しい取り扱い方や注意点を把握しておかなければなりません。
第5類危険物のヒドラジン誘導体は、基本的に「火気厳禁」です。
自己反応性を持っている物質なので、火気のある近くで取り扱ってはいけません。
太陽の光もNGです。できるだけ直射日光を避けてください。
また、アルカリ・酸化剤と強く反応する特徴を持っています。
発火・爆発する可能性があるため、アルカリ・酸化剤と接触しないようにしましょう。そして、取り扱いの際には「防じんマスク」「保護めがね」「ゴム手袋」の着用が絶対です。
皮膚と接触すれば腐敗する危険があります。徹底的に体を守りましょう。
ちなみに、危険物を扱うときは「指定数量」を必ず守らなければなりません。
ヒドラジン誘導体の指定数量は100kgです。
3‐2.ヒドラジン誘導体の保管方法
ヒドラジン誘導体は常温でも保存できる危険物です。
けれども、できるだけ加熱・衝撃・摩擦を避けた状態で保管してください。
あくまで自己反応性を持つ危険物になっているため、火気のない風とおしの良い場所が最適です。
直射日光があたる場所は非常に危険なので日陰に保管しましょう。
そして、いざというときのために消火方法もチェックしておいてください。
一般的な消火方法は「水」を使った冷却方法になります。
ヒドラジン誘導体による火災は大量の水で消火しましょう。
できるだけ安全な場所から消火をしなければ、発生した蒸気で呼吸困難になってしまいます。
必ず安全な場所から大量の水で消火しましょう。
危険物の種類によって消火方法が異なります。
ヒドラジン誘導体は水でいいですが、中には水による消火が逆効果になるケースもあるのです。
4.まとめ
ヒドラジン誘導体の性質や特徴、危険性、取り扱い、保管方法について説明しましたが、いかがでしたでしょうか。
ヒドラジン誘導体は第5類危険物の1種です。
主に、ミサイルの燃料や宇宙探査機の可動部分などさまざまな場所で使用しています。しかし、あくまで危険物の1つです。
ヒドラジン誘導体が皮膚についてしまえば腐敗する恐れがあります。
中毒性も持っているため、必ず安全を確保してから扱ってください。
何よりも使用する前にヒドラジン誘導体について知識を身につけることが大切です。
特に、危険物は1つ間違えると大事故につながります。
安心して扱うためにも、基礎知識を身につけていきましょう。